「サイロ化」解消なるか 老舗ネットワークベンダーがAPI公開、その理由とはDXを阻む壁を打破する

いつでもどこからでも働ける環境の整備、そしてDXのさらなる加速において、基盤となるのがネットワーク環境だ。ネットワーク機器ベンダーがAPIを公開したことによって、企業ITの在り方はどのように変化するのか。

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» 2025年05月19日 10時00分 公開
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 日本では長年、目的別にハードウェアとソフトウェアを一体化した「垂直統合型」でシステムを構築してきた。システムを提供するベンダーは付加価値として独自の機能を開発することで、ユーザーとなる組織ごとのニーズに応えてきた。しかしこの慣習がシステムの個別最適化を後押ししてサイロ化の問題を加速させた。今ではデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、こうしたシステムの壁やデータの壁が大きな障害となっている。

 この壁を打破し、さまざまなシステムやデータの連携から新たな価値を生み出すには、オープンな枠組みで複数のシステムが協調する「新たなデータ連携の在り方」を考える必要がある。こうした背景から、長年にわたり企業ネットワークを支えてきたアライドテレシスは、「テクノロジーアライアンスパートナープログラム」(TAP)を発足した。

 TAPが目指す世界とはどのようなものなのか。東京大学大学院教授の江崎 浩氏と、アライドテレシスの中島 豊氏、松口幸弘氏の鼎談(ていだん)から、DXを阻む壁の問題、TAPの狙いと効果、これからのDXに必要な戦略を探る。

DXを妨げる「サイロ化」の問題

――DXという言葉が登場してから随分たちますが、日本企業ではあまり進展していないように見えます。どこに原因があるのでしょうか。

江崎 浩氏 江崎 浩氏(東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授)

江崎氏 米国ではユーザー企業主導でネットワークシステムを構築していたのに対し、日本ではITベンダーやSIer(システムインテグレーター)がシステムを構築し、カスタマイズを加え、ベンダーロックインを促すようなビジネスモデルが確立されてきました。こうして、ハードウェアとソフトウェアを統合して最適化した垂直統合型のシステムが普及した結果、部門ごとにシステムや情報が孤立するサイロ化が加速し、今まさにビッグデータ活用やAI活用の阻害要因になっています。

 ですが、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行した時期から状況が変わってきました。労働人口の減少が顕在化し、働き方改革が本格的に進んだことで、ビジネスをデジタル化しなければ生き残れない時代に突入しています。人手に頼るやり方が機能しなくなり、デジタルネイティブ世代に入れ替わりつつある今は、DXのちょうどいいタイミングになったとも言えます。

中島氏 日本においてDXは、とにかくコストカットしなければ生き残れないという現実を踏まえた、効率化のための戦略として語られるケースが多かったように思います。IT資産を持たないように、サブスクリプションベースのクラウドサービスに移行するというのは、その典型例です。しかし各システムを個別にクラウド移行した結果、システム間の連携ができず、かえってコストがかさむケースもあるようです。

ネットワークに関するデータをAPIで公開 ユニークなサービス創出を後押し

――このような背景を踏まえ、アライドテレシスはTAPを発足させました。TAPの狙いについて教えてください。

中島 豊氏 中島 豊氏(アライドテレシス 上級執行役員 プロダクトラインマネジメント本部 本部長)

中島氏 従業員の働き方が多様化する中、オフィスでも自宅でも同じように仕事ができる「ハイブリッドワーク」をどのように支援するか――これが企業にとって目下の課題となっています。事務作業をするなら、オンプレミスの文書管理システムとクラウドのファイル共有サービスをシームレスに扱い、どこからでも同じデータにアクセスできる環境を整えなければなりません。テレワークを前提としてセキュリティを確保し、ネットワーク構成を見直す必要もあります。

 そのためにネットワーク、セキュリティ、アプリケーションの各レイヤーで、システムとデータの連携をさらに強化させなければなりません。これはどこか1社の努力だけで実現するものではなく、エコシステムの形成が不可欠なのです。このエコシステム形成の土台となるのがTAPです。

 アライドテレシスは創業から38年にわたって企業ネットワークを支えるハードウェアを提供し、多くのナレッジを蓄積してきました。デジタル化が進み、ビジネスも多様化する中、今や革新的なサービス開発を1社だけで成し遂げるのは難しく、各社の技術とノウハウ、データを相互に連携させて、オープンイノベーションを目指すべきだと考えました。だから当社はTAPを通じて、システム構築やITサービス提供に関わる方々に向け、アライドテレシス製品のAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を公開します。

 上はゲートウェイからスイッチ、下はそれらにつながる無線LANやエンドポイントに至るまで、ネットワークの構成情報やセキュリティに関する情報、トラフィック情報、端末のロケーション情報など、多様な情報をAPIで提供します。これらの情報を、メーカー、SIer、そしてNOC(Network Operation Center)やSOC(Security Operation Center)の方々が取得できるようになれば、データに基づいた意思決定や新たな価値を生み出すシステム構築の糸口になると期待しています。

 当社は以前から、SDN(Software-Defined Networking)技術を活用して各社のさまざまなセキュリティ製品と連携可能な「AMF-SEC」を提供し、セキュリティインシデント検知後にネットワーク全体へ自動遮断を適用する仕組みとパートナープログラムを実現してきました。TAPはそのスコープをさらに広げたものと言えます。

 ネットワークベンダー1社だけでゲームチェンジすることは困難です。エコシステムの形成を前提に、各社が強みを生かしてシステムを連携させることで、新たな顧客ニーズに合わせたユニークなサービスを創出できるでしょう。

江崎氏 先に述べた通り、垂直統合型のシステムがビッグデータやAI活用に対しての阻害要因でした。アライドテレシスはTAPを通じてサイロ化の状態をなくし、連携した形の分散環境を作っていこうとしているわけですよね。個別最適化が強みになるというITベンダーの商習慣は、ユーザー企業からするとロックインの不安と表裏一体です。この慣習を変えたのは、アライドテレシスにとっても革命的な意思決定ですね。

中島氏 江崎先生には以前からこうすべきだと示唆をいただいていたのですが、自社だけの価値を提供していく中で、オープン化してしまうと、独自の価値を提供できなくなるのではないかという懸念がありました。しかし、各業種においてDXが進んできた今、APIを公開することは逆に長所になる時期が来たと考えています。

――TAPのエコシステムが運用現場にどのようなメリットをもたらすのか、具体例を教えていただけますか。

松口幸弘氏 松口幸弘氏(アライドテレシス プロダクトラインマネジメント本部ソリューションマネジメント部 部長)

松口氏 今やネットワーク領域は、情報システム部門だけでなく、セキュリティや設備系、IoT(モノのインターネット)やOT(Operational Technology)など、さまざまな分野の人が関わっています。ネットワーク機器ベンダーでないと取得が難しいような情報にアクセスしやすくなることで、運用管理の視点は大きく変わるでしょう。特にTAPが役立つ領域は、ネットワーク自動化、解析、見える化、セキュリティ、データ転送、という5つの柱があると考えています。

 企業ネットワークなら、TAPを通じたデータ連携によってオフィスと在宅勤務者をつなげ、セキュリティやパフォーマンスの解析、インシデント対応、リアルタイムな分析と見える化など、さまざまなことが実現できます。

 IoTやOT、M2M(Machine to Machine)ネットワークならば、例えばトポロジーマップと組み合わせ、IPカメラがハングアップしたらトポロジーマップでクリックするだけで再起動できるようにする、といったことが可能になります。工場や倉庫で動作している機器の位置情報を無線LANのアクセスポイントから調べ、機器本体に搭載されるセンサーの情報と組み合わせて詳細に追跡する、といったことも実現できるかもしれません。スマートビルやスマートシティーのようなユースケースも考えられます。

図1 TAPが役立つ5つの領域(提供:アライドテレシス)《クリックで拡大》

中島氏 経営者視点では2つのメリットが期待できます。1つ目は、位置情報や設備情報などの広範なネットワークデータを活用してサービスやプロダクトの価値を高め、ひいては利益を高められる点です。2つ目は、ネットワークを仮想化し、TAPの情報を活用してセキュリティを強化すれば、いざというときの損失を小さくできることです。バックアップシステムに、TAP経由で収集したネットワークインフラの構成や状態まで残しておけば、サイバー攻撃などで重要なシステムがシャットダウンしたとしても、それらのデータから速やかに復旧できるようになります。

データの使い方は手にした人次第、思いも寄らない化学反応に期待

――TAPは今後、どのように発展するのでしょうか。計画や構想はありますか。

中島氏 API公開は、オープンイノベーションを導くエコシステム形成の第一歩です。現在は、アライドテレシスが公開するデータの信頼性を確保するため、ネットワーク機器に証明書を搭載してセキュリティを強化するOnboarding機能の準備を進めています。機器を認証し、識別できるようになることで、データ活用の可能性はますます広がり、新たなビジネスモデル形成・創出につながると期待しています。

江崎氏 データのオーナーシップは、ベンダー側が保有することが長い間続いていました。しかし本来、データのオーナーシップはユーザー企業が持つべきなのです。データをどう活用するかの意思決定権も、ユーザー企業が持つべきでしょう。ある大手通信企業は最近、「データを提供しないところからは買わない」と宣言してITの調達方針を変えたそうです。こうした動きは世界各国で広がっています。

 私はよく「発明は必要の母」だと説いています。「必要は発明の母」ではありません。テクノロジーは中立的なものであり、どう使うかは手にした人次第です。開発者には思いもよらない方法で、ユーザーがツールを使うこともあります。同じように、データも中立性を持っており、どう使われるかはユーザー企業次第です。将来はTAPのパートナー企業にも、アライドテレシスが想定しないような異業種が参入し、革新的なユースケースを作り出すかもしれませんね。

中島氏 アライドテレシスがネットワーク機器ベンダーとして、今後もハードウェアを提供し続ける意義の一つが、今回のTAPだと考えています。データをオープンにすることで市場競争が生じ、何か新しいものが生まれるきっかけにつながればと願っています。ネットワークとはシンプルな「土管」のようなものですから、多様な業界とオープンにつながり、化学反応を起こしてほしいと願っています。

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